第三章    お母さんの入院

     逃げる・・・としたら、ここが最後のチャンスでしたね。
     しかも、松山では誰もが知っていたKさんの近所の遊技場経 営者は、ココ
         で逃げました。
100坪ポッチではないですよ。合計1000坪超えてたよ うな
         記憶があります。

     さすが・・・です。決断力の差、としか言いようがありませ ん

2005年の春でしたか、夕方Kさんから電話がありました。お母さんが 倒れたという
ことでした。
脳梗塞のようですが、命に別条なく既に病院 へ入院していました。
Kさん の中・高校の同級生に
Drが多いので、こういった非常事 態への対応には
ことかかないようで す。


ちょっと相談したい、というので仕事に行く前に湊町の裏通りにある寿司 屋で待ち
合わせました。

価格の出ていない「うに」を箱のままつつきながら日本酒で一杯やりなが ら待って
いました。
相変わらず贅沢の抜け切らないアンちゃんで す。

Kさん 「お袋が、倒れたんで、ちょっと事情が変わると思う。今後、どうす るべき
           か意見を聞かせ
て欲しい。」

私   「どうするって言っても、いつもKさんどうもせんじゃない。お母さ んがその
           気になってるから
・・・と銀行の言いなりに建て替えはするし、結果、テナ
           ントの入 りが悪くて最初の計画は
頓挫。家賃下げてもやっと半分しか
           テナント埋まらんのやろ?」


Kさん 「あれから、さらに家賃下げたんよ。先に入ったテナントに内緒で な
           。そうしたら一軒入って
くれたんよ。」

私   「えっ?と言うことはKさんとこのテナントさんの家賃は三重構造な ん?」

Kさん 「そういうことや。仕方なかろ。」

って、まあ当時はテナントを埋めるため、かなりのビルで二重価格の 家賃が横行
していたようで
す。かくいう私も、後で知ったのですが、 大家が「少し値下げしま
す。」ってんで喜んでいたら、私
の後に入居した人達は仰 天のディスカウント家賃
でした。

私   「20億と言ってた地価も下 がってきたんやろ?今の実勢価格はどうな
           ん?」


Kさん 「半分くらいやと不動産屋は言うとったな。10億なら買い手を捜し てく
           れるそうや。」


私   「お母さんは退院できる可能性はあるの?」

Kさん 「ない・・・と思う。実は倒れる前から少しボケてきて、今日も医者 から家で
           は生活できん、と
言われた。」

私   「Kさん、20億が10億になったら心理的に相当な大損ををこいた と思って、
           戻るまで待とう
なんて思う人も多いけど、問題を先送りしてる間に、どう
           にもこう ににもならなくなってしまう
よ。銀行から8000万円借金を して、
           テナント探しに苦労してる 間に、得べかりし20億が
あっという間に半分
           になったんよ。お母さんの入院費も結構かかる やろ?
ここで、決断して
           実行しなきゃ絶対えらいことになるよ。」


Kさん 「それはよくわかるけど、お袋が生きている間は、現状でいこうと思 うん
           よ。」


なら、なんで私に相談するの?と少々腹がたってきたけど、まあ話を 聞いてあげ
ようと気持ちを
とりなおし、

私   「お母さんが、例えばこれから10年、入院するとして、銀行に借金 申し込
           んでも担保価値
がどんどん下がってきたら無理なんちゃうの?Kさんの
           頭の中に も”元本20億・10億”と
いうのがズーッとあって、借金が 1億や
           2億あっても何とかな る・・・という甘い考えがあるん
じゃないの?
     では、最終的にアノ土地、バブルが落ち着いたとしたら、いったい いくら
           くらいで推移すると
思ってるの?」

Kさん 「う〜ん、そうかもしれんなぁ。実はね、値上がりし始める前にも不 動産屋
           が来てたんだけど
売って300万、買うて350万いうのが云わばアノあたり
           の地相 場いうやつじゃったね。

     だから、いよいよいかん!というときになっても3億くらいにはな ると思うし
           上モノを入れると
3億5千くらいにはなるんちゃうかな。」

これで、わかりました!
自分が決断しないといけないという面倒から逃げて、目先は銀行と母 親に任せ、
一番肝要なことは
先送り、先送りしつつ、もうアカン!と なったら、全て処分して
(こ れも第三者に委託するんだろう.。)
それも、計算通りゆ く筈もないのに・・・
この人、博打は大好きだし頭もいいけど肝心のマネーゲームは全く知 らない。
「相場は行きすぎるもの」なのだ。オーバーシュートといって、天井 も底も人知の
及ばない未知の
領域にいってしまうのがセオリーなのであ る。

これは、えらいことになってしまうぞ!と思っても、相談があるか ら・・といっても
私の提案を聞く筈
もないKさんです。

私   「Kさん、Kさんの計算通りに相場は動かないと思うよ。どうせ、3 億で手
           放す・・・という気持ち
があるのなら、余裕のある今10億で手放したらどう
           ですか?建物 なんてどうでもええがね。
銀行に金返しても9億あったら、
           なにもせんでもお母さんの面倒も みれるし、酒も飲めるで。」


Kさん 「考えてみるわ・・・」

駄目だ、こりゃ・・・
まあ、何を言っても無駄なことはよーく解りました。今後の経緯を見 守ることに決
めました。


数ヵ月後、新聞にニュースが出ます。
Kさん宅の周辺に、駐車場、店舗、住宅などを千数百坪所有していた事業 主が、
例の「L字型大
規模商業施設」実現のため、周辺土地を買 い集めていた幹事会社
、四国日 本信販(2007年788億
の負債を抱え破産)に譲渡し た。というものでした。

坪単価は予想で700万円。皆、びっくり仰天しました。つい2年ちょっ と前まで坪
2000万〜2500万の
値が付いていた土地をですよ、 その三分の一以下の値段で
一括売却したの ですから。


「投売り」だと皆思いました。ぬるま湯につかりっぱなしの銀行員もそん な噂をして
いました。しかし
これは投売りどころか、プロの立派な 「売り逃げ=売り抜け」行為
です。 オーバーシュート分の大半を
じっくりと見過ごして、さら に本格的な「サヤ
剥げ」が始まることを見極 めてから、さっと売り抜けたの
に違いありません。しかも
大きな土地です。買い手がいないことには処分 できません。

協力会社が次々手を引く中で、四国日本信販だけはすでに息切れしつつあ りまし
たが、もう逃げる
わけにはゆかないところまで「L字型大 型商業施設」にのめり込
み社運を かけていたわけです。

この、絶妙のタイミングといい、売値といい、もうこれは単なる「運」で はなかった、
と今だからこそ
確信できるのです。

まだ坪1000万はする・・・という相場のときに、千数百坪を買わせる には700万と
いうのは心憎い
ばかりの高等テクニックではありません か。賞賛に値すると思い
ます。


そして、この実取引を機に、プレミアムは一気に剥がれ始めます。
四国日本信販がおかしくなったのもありますが、急速に買い手が居なく なってし
まったからです。


坪500万が400万、400万が350万と少し戻っては先の安値より さらに落ちてゆき
ます。

一時は2000万は軽くしていた土地が、なんと気が付いたら300万も しなくなったの
です。もうアホ
臭くって心理的に売りたくても売れません よね。

Kさんも300万になったら考える・・・といっていましたが、当然なが ら動けません
・・・というより彼
は動きません。もうわかってましたか ら、私も愚痴をうんうんと聞
くだけ です。


お母さんはその後、痴呆が進み、病院内を徘徊するようになり予断を許し ません。
安い医療費
とは言え、Kさん宅の経済事情は大変だったと 思います。
しかし、予想通り、信用金庫は追加融資をしませんでした。当然といえば 当然で
すが、自分が
作った、或いは認可した事業計画が頓挫して も道義上責任は感じ
ないので しょうかねぇ。だから、
転勤が多いとも言われてます が・・・。

このKさん宅の南寄りに一軒、ずーっと北寄りの湊町表通りに一軒、私の 同級生と
家族が営む
店舗がありました。両方とも自己所有の土地で す。噂を耳にしました
が、 両軒ともこのバブルには
翻弄されたばかりではなく、えら いことになってしまい
ました。

一軒は数十億円していたころに母親がなくなり相続で兄弟が大揉めし法廷 闘争
しているうちに
バブルがはじけ、相続額は当たり前の金額 に・・・兄弟仲は元に
戻らず、 ということに。

もう一軒は、バブルの最中にした借金が、バブルの崩壊とともに返済不能 なり、
店舗ごと競売に
かけられ、今尚、元自分の店に家賃を払っ て商売しているという
憂き目 に・・・。


この両家とも、バブルの最中に土地を売却しておきさえすれば・・・とい うのは
結果論でしょうか?

なぜなら、バブル当時でさえ商売自体もはや、立ち行かなくなりつつあっ たのです
から・・・。

そんなときの土地バブルは「天からの恵み」に違いなかったのですが ねぇ。
しかし、これが出来れば、世の中倒産する人なんていないですよね。先の ことは
結局誰にもわから
ないのですから。

Kさんに戻ります。
誰もが翻弄されたバブル狂乱。Kさんに最良の方法を選択したり、どこか で売り抜
けを決断したり
することを要求するのが、当たり前に無理 だということは周辺の
住人や地 主をみていてもよく
わかります。
ある種の、秀でたというより金運に恵まれた、一握りの人たちだけが甘い 蜜に
ありついた、という
べきでしょう。

さて、銀行からの融資を断られたKさんはどうするのでしょうか?