第五章  終焉

     2007年は松山バブルの終焉でもありました。Kさん宅の 近隣を買い漁っ
     た四国日本
信販が788億という負債で大型 倒産をします。これが結 局
     、間接的にKさんにも引導
を渡される結果と なったようです。

今ではどうか知りませんが、当時、金融機関の抵当に入った物件に、 多様なもっ
ともらしい理由をつけて、実際に住み込んだりして占有する方法が、ある種の人
たちの間で横行していました。

ここは、私がかなり前から借りて済んでいます。ホレこの通り契約書もあるし、
家賃も納めてます。とか、○○さんにお金を貸して返して貰えないのでやむなく
居座っています。借用証もありますよ。とか正当な理由をつけて居座るのです。

これが、結構なお金になった時期があるのです。特にバブル期においては金融
機関や貸主側も、土地を処分したら間違いなく貸付金以上のものが戻ってきて
いたわけですから、四の五の言わずに、面倒ごとはお金で解決するのが当たり
前になっていたのでしょう。又、借金で身動き取れない人を見つけてはカモにして
いたケースも多々見受けられました。

ところが、です。

プロジェクト・チームは大きな誤算をしていました。

それは、予想をはるかに超えた地価の暴落です。

ある意味では、プロ中のプロたる”Kさんたらしこみプロジェクト・チーム”でさえ、
予想だに出来なかったほど急激に地価が下がっていました。もう捨て値と言っ
てよいほどの値段でさえ取引は成立しないほどの買い手市場になっていました。

もとは、20億円した土地に総工費8千万円のテナント付き豪邸ならば、いくらなん
でも捨て値で2〜3億。そこの経営母体を手にし、2番抵当をつけておいただけで
立ち退き料或いは迷惑料、解決金でも名目を問わず最低でも1億は堅い!
と踏んでいたと思います。いやいや、予想を大きく外れたとしても数千万円の仕事
には間違いありませんでした。今まではそれでうまくいっていた筈でした。

そして、ついに四国日本信販は788億円という途方もない負債を抱えて破産します
。買い集めたL字型商業施設予定地はナント!坪70万円という驚きの価格で放出
されたのです。

当然ながら、近隣地域いや湊町・大街道にまで実取引額は波及し多くの店舗に
貸付をして担保をとっている金融機関も大騒ぎとなりました。

担保割れを起こしたのですから。
無借金の店舗など皆無です。しかも、バブルの最中にKさんと同じように融資を
して貰い、改築、改装をしているのです。なんとか金利だけは払っていますが、
いまでもその頃の借金をそのまま抱えてる店舗オーナーも多いと聞いています。

当てが外れたプロジェクト・チームも驚いたでしょうが、もっと驚いたのは第一
抵当権を持つ信用金庫です。もともとKさんを信用していない信用金庫と税理
事務所は家賃の入る有限会社の口座を完全管理していました。

その口座に突然、店子からの入金が途絶えたのです。すぐに調査したところ、
Kさんの会社は名義変更されているわ、口座は変えられてるわ、2番抵当がつけ
られてるわで支店長は本店に「どうやって説明すれば・・・」と真っ青になったこと
でしょう。

一方のKさん、「やられた!」と思ったのもつかの間、次の金の工面をしなければ
ならない訳で、おっとり刀で信用金庫の窓口を訪れたといいます。

「あの・・・もう、どうにもならなので少し融通できませんかぁ・・・・?」

信用金庫の担当者はすでに支店長になっていましたが、さぞや驚いたと思いま
すよ^^多分、暫くは言葉が出ず、Kさんの顔をまじまじと見ていたかと・・・^^

で、結論からゆきますと、信用金庫は地価がすでに担保割れになっているにも
拘らず、融通してあげたんです。今となっては信金の思惑もわからぬでもない
です。信金にとっては長い目でみれば”8000万で手に入れた優良資産”である
ことに変わりはありませんからね。
今になって冷静に考えると地価は担保割れといっても、上モノは立派な建物です
からまだまだそれなりの資産価値はありますしね。
さらに、テナントが8件もついてますから、なんとか満室にこぎつければ、固定
資産税などの維持費は出ますから、信金はさすがいい仕事をしますなぁ^^噂通
りです。

しかしその時点においては、Kさん本人と、それを聞いた私が一番びっくりしまし
た。なにせ、お堅い信金が、言葉は悪いですが”泥棒に追い銭”みたいなことを
するとはねぇ。

私もよく知ってる支店長でしたが、彼の判断なのか本店の意向なのか、兎に角
Kさんにとっては結構な金額を融通してくれたのです。もう、当然ながらKさんから
回収はできないのは解かりきっていますから、担保履行差し押さえ間近の云わば
”手切れ金”だったのだろう・・・と私は今でも思っています。

大きく思惑の外れたプロジェクト・チームは、新会社の簡易な看板と管理主体の
変更を書いた掲示物をKさんのビルに張り出しました。信用金庫もそれは黙って
いられません。名義変更と抵当権設定の無効を地裁に提訴しました。

ちょっと、話が先に進んでしまいますが、結局、どうもプロジェクト・チームがKさん
のタラシコミに使った200万、返ってこなかったみたいなのです。
当然ながら、裁判で信用金庫側の勝訴が決定し、プロジェクト・チームの200万円
は、個人的に彼らがKさんに貸し付けた生活費ということで裁判では問題にもされ
なかったようです。
その件は当事者同士で解決するように・・・と言うことですね。信金も当事者では
ないですから全く関係ありません。
文無しのKさんに、いくら督促しようが脅かそうが、ない袖は振れないですから・・・。

後日、それらしき人たちが裁判所で
「Kはとんでもないやつじゃ!騙されて金盗られたんは、ワシらじゃ!」と目の前で
喚いているのを見て”アッパレ^^Kさん”と笑いを堪えるのに苦労しました^^

しかし、結果的にとはいえ、200万円くらいならそんな奴らから踏み倒せる、したた
かもののKさんが、10億はおろか5億でさえ正当な方法でモノに出来なかったのは、
何度考えても、ザンネン無念の一言です。何度も何度も繰り返し巻き返し言って
しまいますけどねぇ・・・。

結局、その年の暮れに私宛に裁判所から封書が届きます。
「Kさんの破産宣告に伴う説明」の案内状でした。私の店に飲み代のツケがある。
ってKさんが届け出をしたらしく、「債権者は○月○日までに証明できる帳簿など
の写しと確定金額を提出するように。」とありました。

まあ「自己破産」しかありませんよね。もう全く他に手立てはなかったと思います。
Kさんは、銀行からの差し押さえを受け、立ち退きを待つ身。親戚からの援助で
細々と生活してはいました。

当然、飲み歩くこともめったになくなりましたが、ウイスキーの角瓶を買いに出た
ついでに私の店の入り口で、とうとうと愚痴をこぼしていました。

当日、裁判所で若い女性の裁判官が法衣をまとって颯爽と登場し、債権者十数
名を前に、
「Kは○月○日自己破産の申請をし、審議の結果、当裁判所は○月○日にKの
自己破産を承認した。ついてはKの個人資産残高の報告を行う。伊予銀行普通
預金残高251円。愛媛銀行普通預金125円。愛媛信用金庫普通預金348円。以上
である。これ以外の資産は全く無く、よって債権者にたいする返済は現時点にお
いて一切不能であります。」

「Kさん、なにか申し立てはございますか?」「ありません・・・」
「債権者の方、なにか申し立てはございませんか?」「・・・・・・」

「これにて、閉廷!」

たったコレだけでした。これでなにもかも終わりました。
20億円も、夢の郊外マンションも、鯉の泳ぐ日本庭園の数奇屋造りの自宅も、
あこがれの海外移住も、もしかすると出来たやも知れぬ新しい妻も・・・うんにゃ、
今日住むところさえ、そして僅かながらの飯の種までも・・・。

目つきのよくない男が「騙されたんは、ワシのほうじゃ。あいつ、トンでもない奴
やぞ。ゴロゴロして仕事もしたことない奴が、ビルのオーナーみたいな顔をして、
金を騙しとられたんじゃ。」と息まいていました。また百万を超えてツケを溜め
られた年配のママさんも見るからに萎れてガックリきていました。

しかし、事が大きくなればなるほど、幕切れは呆気ないものですねぇ・・・。
いつの世もおなじです。

さらに、こちらも被害は甚大で・・・という態度の信用金庫だけは実質損はない、
っていうのが凄い矛盾ですよね。帳簿上は担保割れしているので実質赤字だって
言いますからね^^

Kさんは最後に、信金の貸付金8000万円を誰かに肩代わりして貰い、なんとか
差し押さえから逃れたいと模索しましたが、お金持ちほどバブルが弾けてしまい
体力を消耗してしまっていた当時、「俺が!」という人は皆無でした。先の見え
ないトンネルに突っ込んだようなものですから当然といえます。

その後、四国日本信販が放出した
土地を、さらに安価で手に入れたマンション
業者は、建設計画段階ですでに一等地の格安マンションを完売し(あそこで3LDK
2000万円台ですよー^^)、
湊町に面した広大な敷地を手にいれた専門学校のK学園はさらに事業を拡大
し現在に至ります。
立派というか、運がありますねぇ。いずれにせよ、Kさんの対極に住む人たちです。

勿論、元Kさんのテナントも信用金庫の思惑通り「満室御礼」で現在に至っている
ことを書き加えておきます。

機会があれば、あの界隈を歩いて、このお話を思い浮かべてみてください。
散歩の価値は十分ですよ。
「ああ・・・これが・・・・。」って感慨深いものがきっとあること請け合いです。

だって、湊町、大街道そして、その周辺の古い地主さん達は、みーんな数十億 円
がパーになった
人達なんですからねぇ・・・。